
配信や録音で“ボフッ”という息混じりのノイズに悩んだことはありませんか?
その原因は、マイクに直接当たる破裂音(プルーシブ)。
これを防ぐのが「ポップガード」です。
見た目はただの網のようですが、
実は録音クオリティを大きく左右する重要な機材。
本記事では、ポップガードが必要な理由や、
素材ごとの特徴、設置のコツまで詳しく解説します。
この記事のねらい
- まずカンタンに:「結局ポップガードって何? つけると何が良くなるの?」をすぐ理解。
- さらに深く:仕組み・素材の違い・マイク種類別の相性・正しい設置・買い方のポイントまで網羅。
- 配信者目線:ゲーム配信・雑談配信・歌ってみたで“必要かどうか”を具体的に判断できるように。
要点まとめ
- ポップガードは破裂音(P/B/Kなどの息の衝撃)を弱めて、ボフッという低域の歪みを防ぐためのアクセサリ。
- 配信でも有効。特にマイクに近づいて話す/感度高め(コンデンサ/USB)/歌うなら、つける価値が高い。
- 素材は主にナイロン(汎用・コスパ)、金属メッシュ(抜けが良い・耐久)、フォーム(風防:屋内の息対策や屋外の風に)。
- 正しい位置は「口→(5–10cm)→ポップガード→(5–8cm)→マイク」。少しオフ軸(off-axis)で話すと効果アップ。
ポップガードって何?(超カンタン版)
マイクに「息が直接当たる」と、ドンッ/ボフッといった低音の雑音(=破裂音/プルーシブ)が乗ります。
ポップガードは、息の衝撃を拡散してマイクに届く前に和らげる“息よけ”の役割。
結果として、
- 録音や配信で耳障りな低域のブワッを防ぐ
- コンプレッサーやリミッターが誤作動(息で急に音量が跳ねる)しにくくなる
- 音量を稼いでも声の芯が崩れにくい
→ 声がクリアに聞こえ、聴きやすさが上がるのが最大のメリットです。
配信でも必要?用途別の判断早見表
用途 | マイク距離 | マイク種類 | 必要度 | 理由 |
---|---|---|---|---|
雑談・ゲーム配信(近距離) | 10–20cm | USB/コンデンサ | 高 | 息が当たりやすく、感度も高い |
歌ってみた/ナレーション | 10–20cm | コンデンサ | とても高 | 破裂音が特に目立つジャンル |
ダイナミック(例:放送用)でやや離し気味 | 20–30cm | ダイナミック | 中 | 近づけば高、離せば中 |
屋外撮影/ASMR(小声・息多め) | 近距離 | どちらも | 高 | 息・風の影響が大きい |
会議/遠距離・環境音重視 | 30cm以上 | どちらも | 低〜中 | 息の直撃がそもそも少ない |
補足:Shure SM7Bなど厚めのフォーム風防を標準装備するマイクは息に強め。ただ極近距離でP/Bが気になる場合は、追加でポップガードを足すとさらに安定します。
ここから深掘り:破裂音の正体と仕組み
破裂音(Plosive/プルーシブ)とは
- P/B/K/Tなどの発音で発生する瞬間的な空気の塊。
- マイクのダイアフラム(振動膜)に直撃すると、低域が過大になり「ボフッ」と歪む。
- 指向性(カーディオイド)のマイクは正面感度が高い分、真正面からの息に弱い。
ポップガードの物理的な働き
- メッシュ/布・フォームで息の速度を落とし拡散する。
- 高域の減衰を最小限にしつつ、低域の衝撃だけ和らげるのが理想。
- 二重層(デュアルレイヤー)はさらに拡散効果が高い。
素材・構造の違いで何が変わる?
種別 | 代表素材 | 特徴 | 音質傾向 | 向き/注意点 |
---|---|---|---|---|
ナイロン布(丸型) | ポリエステル/ナイロン | 一般的・安価・扱いやすい | わずかな高域減衰あり。息処理は十分 | コスパ最優先。二重層だと効果↑ |
金属メッシュ | アルミ/ステンレス | 耐久性・衛生面に優れ洗いやすい | 抜けが良く高域の減衰少 | 近すぎるとポンと鳴る個体も。距離調整を |
フォーム(風防) | PU/ウレタン | マイク本体に被せるタイプ | 低域風圧に強い。高域やや丸くなる傾向 | 屋外や息の直撃対策に。重ね掛けで強力 |
デッドキャット | 長繊維フェイクファー | 屋外の風に強い | 中高域の変化は素材次第 | 室内配信では過剰なことも |
デュアルレイヤー | ナイロン×2 / 金属×2 | 息拡散力が高い | 高域変化は設計次第 | 角度&距離と併用で最強クラス |
実践目線:話し声の明瞭さ重視なら金属メッシュ、コスパ&失敗しにくさはナイロン、屋外/強い息にはフォームや併用が手堅い。
マイクの種類との相性(配信でありがちなケース)
- USB/コンデンサ(Blue系、RØDE、Audio-Technicaなど)
感度が高く、近接運用が多い → ポップガード必須級。 - ダイナミック(SM58/SM7B系)
息には比較的強いが、超近接・大きめの発声・歌ではあった方が安心。 - ラベリア/ヘッドセット
口から外れていれば破裂音は出にくい → 必要度は低め(風防は有効)。 - ショットガン
正面で近距離は息に弱い → 角度を外す+軽い風防で対策。
正しい設置と話し方(ここが9割)
- 距離
- 口→ポップガード:5–10cm
- ポップガード→マイク:5–8cm
近すぎると効果が薄く、離れすぎるとゲインを上げてノイズが増えがち。
- 角度(オフ軸)
- マイクを口の真正面から5–20°ずらす/口を少し外して話す。
- 息の直撃が外れ、破裂音が激減。
- 話し方の工夫
- P/Bを意識し、横に抜くイメージで発音。
- レコーダーで「pipipi」「bababa」テスト→波形がドンと肥大化しない設定に。
- ゲインとコンプ
- 入力ゲインは必要最小限。コンプレッサーで息のピークが持ち上がらないよう、スレッショルド/アタック/リリースを調整。
いつ“要らない/過剰”になる?
- マイクが30cm以上離れている/環境音も拾いたい
- ラベリアで胸元装着、息が直接当たらない
- SM7B+厚手風防(A7WS等)で、破裂音が既に問題ない
- 口の真正面にマイクを置かない運用が定着している
それでも歌・ASMRや収録の安定性を求めるなら、ポップガード併用は失敗しない選択です。
購入ガイド:失敗しないチェックポイント
- 直径:100〜150mm(大きめの方が狙いを外しにくい)
- アーム:フレキシブルで保持力が高い。重い金属ガードでも位置が落ちないもの
- 固定方式:クランプの当たり面が広い(デスクやブームアームに傷を付けにくい)
- 二重構造:破裂音が強い人・歌用途ならデュアルレイヤーが無難
- メンテ性:取り外して洗える(金属/ナイロンは水洗い可、フォームは軽く手洗い&陰干し)
- 価格感:
- 入門:1,000〜2,000円(ナイロン)
- 中級:2,000〜4,000円(ナイロン二重/金属)
- 上級:5,000円〜(剛性・質感・調整機構が良い)
よくある誤解と注意点
- 「ポップガードはノイズを減らす機器」 → ×
- 電気的なホワイトノイズ/PCノイズは減りません。息や風の衝撃に効くもの。
- 「つけると音がこもる」 → △
- 質の良い金属メッシュや適切な距離なら高域劣化は最小限。
- 「フォーム風防だけで十分」 → △
- 会話なら十分なことも多いが、歌/近接/強い破裂音ではポップガード併用が安定。
- 「真正面でベタ付け」 → ×
- 距離と角度が超大事。少し離してオフ軸に。
セットアップ手順(クイックチート)
- マイクを口のやや斜め位置(5–20°外側)に。
- ポップガードを口から5–10cm、マイクまで5–8cm。
- ゲインを声量の最大でピーク -12〜-9 dBFSに収まるよう調整。
- 「pipipi」「bababa」テスト→波形と耳で破裂音の残りを確認。
- 残るなら角度をもう少し外す/デュアルレイヤーやフォーム併用を検討。
トラブルシューティング
- まだボフッが出る
- 角度を増やす/ポップガードとの距離を少し広げる/二重層にする
- 高域が鈍い
- 金属メッシュへ変更/距離を数cm詰めてゲイン再調整
- マイクが見切れて画面映えが悪い(配信画面)
- 細枠の金属メッシュや楕円型に変更/カメラ外側へ寄せる
- キーボード音がうるさい
- ポップガードではなく、マイク位置の調整(口寄り・キーボードから遠ざける)やゲート/NR(ノイズリダクション/Noise Reduction)で対処。
まとめ
- ポップガードは息の衝撃を抑えて、破裂音を防ぐための“最後のひと手間”。
- 配信・歌・ナレーションのクオリティを短時間で上げるコスパ最強アイテムです。
- 素材と設置を理解して、距離・角度・テストの3点を押さえれば、誰でも“プロっぽい”音に近づけます。
付録:用途別おすすめ構成(指名買いしやすい考え方だけ)
- 雑談配信(USBマイク):
ナイロン二重レイヤー(直径120–150mm)+軽いオフ軸。 - 歌ってみた:
金属メッシュ or ナイロン二重+フォーム併用、距離設計を丁寧に。 - ゲーム配信(ダイナミック近接):
厚手フォームで足りなければ金属メッシュを追加。 - 屋外/扇風機やエアコン直撃環境:
フォーム+デッドキャットで風対策を優先。
用語解説
「ゲート(Gate)」と「NR(ノイズリダクション/Noise Reduction)」は、
どちらもマイクの音をきれいに整えるための処理機能ですが、働き方がまったく違います。
それぞれわかりやすく説明します
ゲート(Noise Gate)とは
一定以下の音を“自動でミュート”する機能のことです。
仕組み
- マイクが拾う音が設定した音量(スレッショルド)より小さいとき、
→ ゲートが「閉じて」音をカットします。 - 声を出した瞬間、音量がしきい値を超えると
→ ゲートが「開いて」音を通します。
効果
- 無音時のノイズ(PCファン・エアコン・キーボード音など)を自動で消せる
- 配信中の無駄な環境音が減り、音が引き締まる
例(OBSなどでの設定目安)
- スレッショルド:−40〜−30dB(声を出すと開くぐらい)
- アタック:10〜30ms(開くスピード)
- リリース:100〜200ms(閉じるまでの時間)
→ 話していない間は静かに、話し始めたら自然に音が出るように調整します。
NR(Noise Reduction)とは
録音中の“常に入っているノイズ”をデジタル的に減らす処理のことです。
仕組み
- ソフトや機材が、ノイズと声の周波数の違いを分析して、
ノイズ部分だけを自動で抑えます。 - OBSやDiscord、NVIDIA Broadcastなどに内蔵されていることも多いです。
効果
- ファンの「ブーン」、エアコンの「サー」、PCの「ジー」などの持続的なノイズを軽減
- 声をクリアに保ちながらノイズを減らす
注意
- NRを強くかけすぎると声がこもる/ロボっぽくなる
- ゲートと違い、常時処理するためCPU負荷や音質変化がある
まとめ:ゲートとNRの違い
機能名 | 主な目的 | 働き方 | 得意なノイズ | 注意点 |
---|---|---|---|---|
ゲート(Noise Gate) | 小さい音をカット | “しきい値”以下は完全にミュート | 無音時の雑音・環境音 | 声が小さいと切れる |
NR(Noise Reduction) | 常時ノイズを軽減 | 音声をリアルタイムで分析して除去 | ファン・風・ホワイトノイズ | 強くかけるとこもる |
つまり簡単に言うと:
🎙 ゲート=話していない時を“消す”
🎧 NR=話している時の“ノイズを薄くする”
この2つを上手く組み合わせることで、
配信や録音の「静かなのに自然な音」を作ることができます。
オフ軸とは?
「軸(axis)」=マイクの真正面(感度が最も高い方向)を指します。
つまり“オフ軸”とはその軸から少しズラした角度で声を入れることです。
軽いオフ軸=どのくらい?
目安としては
5〜20度程度、ほんの少し斜めにするイメージです。
たとえば:
- マイクの真正面に口を向けず、マイクを少し横にずらす
- もしくは、マイクはそのままで自分の顔を少し横に向けて話す
角度にすると、顔をほんの少し右か左に振る程度(10cm弱のズレ)。
見た目には「正面っぽいけど、わずかにずれている」ぐらいでOKです。
なぜオフ軸が大事なの?
オフ軸にすることで、
- 息や破裂音(P/B/Kなど)が直接マイクの振動板に当たらない
- “ボフッ”“ドンッ”といった低域ノイズを大幅に減らせる
- 声の明瞭さを保ちながら、息だけを外すことができる
つまり、音質を保ったままノイズを防ぐ“自然な息対策”なんです。
オフ軸の注意点
- 角度をつけすぎると、高域が落ちて声がこもる
- 距離が遠くなると、音量が下がりノイズが増える
→ そのため「軽いオフ軸(5〜20°)+10cm前後の距離」がベストバランス。
例えるなら…
マイクを「レンズ」、口を「被写体」とすると、
レンズに息を吹きかけないように、少し角度をつけて話す感じです。
リスナーには違和感なく、マイクにはクリアな音が届く
それが“軽いオフ軸”の狙いです。